スタッフの松浦です。皆さんいかがお過ごしですか?
今回も日本庭園の話題をお送りします。
さて、私は大学で美術を専攻したので、日本庭園の他にも洋の東西を問わず好きな芸術作品がいろいろあります。
たとえば19世紀ドイツロマン主義の画家、カスパー・ダーヴィト・フリードリヒの「虹のかかる山岳風景」もそのひとつです。
漆黒の闇がたれこめたアルプスの谷、空を覆う灰色の雲の隙間から僅かに漏れ注ぐ月の光に照らされて白々とした虹が出現しています。
画家が実際に見た風景もしくは想像によるものか定かではありませんが、いずれにせよ私はこの絵を見て以来「虹=明るい=希望」という概念を完全に捨て去ってしまいました。
虹のようなものにさえこの世のものには「陰と陽」があることを知ったのです。
やがて月日は流れ、各地の日本庭園を訪ね歩く私は、ある日「フリードリヒの虹に似たもう一つの虹との出会いを果たしました。それはあまりにも意外な場所にありました。日本庭園につきものの茶室の窓に虹が出現するのです。
写真は山口県防府市にある英雲荘の茶室「花月楼」で撮影しました。
土壁の中の構造物である竹格子をあえて装飾として露出させた「下地窓」につけられた障子に、虹のようなカラフルな光が投影されて模様を描き出しています。
このように色づいた茶室の窓は「虹窓・にじまど」と呼ばれています。
はじめて虹窓を見たとき私はとても驚きました。
茶室に存在する色は床の間に飾られる一輪の花だけだと思っていたからです。
虹窓は太陽の光が直接窓にあたるときは出現しません。柔らかい太陽の光が窓の外の木々や地面に反射し、それがさらに下地窓の竹格子に反射して、障子の白い紙に空の青や木々の緑などの色を映し出すと考えられています。本物の虹のように七色にまではならずだいたい三色ほどのようです。
私の経験では朝に多いように思います。
楽水園の茶室には屋外に設えられた下地窓はなく、縦格子がついた連子窓しかありませんが、ここでも虹窓の現象が見られます。直線的な縦格子に反射した光が映し出す色彩はステンドグラスのようなモダンな趣です。
また、たとえカラフルではあっても、虹窓はやはり茶室にふさわしく「侘び寂び」を宿していることにわたしはほどなくして気が付きました。
仄暗い茶室にそっと佇み、虹窓を眺めていると時間が止まったような気がします。
しかし、時は確実に過ぎていきます。
ひとしきり物思いに耽ってふと目をやると、虹窓は幻のように消え去っているのです。
いつの間にか生まれ、成熟し、知らぬ間に衰え、やがて跡形もなく消滅する。
それはまさに「宇宙の理・ことわり」そのものです。
虹窓は茶室という小宇宙で秘めやかに繰り返される命の輝きにも似た美。そして誰もそれを自分のものとしてそこに留めることは出来ません。
今日もどこかの茶室で人知れず窓が虹のように染まっていることでしょう。いつかあなたも出会えますように。
追伸
虹窓と同様の現象は私達の暮らしのいたる所で見ることができます。
先日我が家のリビングでも見つけました。下の写真に虹窓の仲間が隠れています。
我が家ではエアコンに専用の物干し竿を取り付けて、乾燥機を使うまでもない少量の洗濯物をエアコンの風で乾かしています。
空気が乾燥する冬の季節には加湿器の代わりにもなって大変重宝しています。まあインテリアとしてはいまいちですが。
さて、写真をよく見て下さい。
右手前のスタンドの間接光が物干し竿に反射してエアコンの送風口の白い蓋に青い影となって投影されているのが確認できるはずです。これも立派な虹窓の仲間。
でも侘び寂びとは無縁の生活感あふれる風景ですけどね。
皆さんの暮らしの中でもきっと見つかるはず、探してみてください。