楽水園

ベルサイユ宮殿は親戚?

皆さんご機嫌いかがですか、スタッフの松浦です。
外出もままならない昨今ですが、せめてこのブログで日本庭園の世界に思いを馳せて心の小旅行に出かけていただけたら幸いです。

さて、今回は福岡のちょっとした観光案内から。

日本庭園ファンには社寺仏閣好きが多いようですが、私もその例外ではありません。
地元の神社なら「宇美八幡宮・うみはちまんぐう」(福岡県糟屋郡宇美町)がフェバリット。
この神社の境内には30本もの楠の巨木が立ち並び、空気は楠=樟脳の匂いに満たされ身も心も清められたような気分になれます。まさに全身クリーニングというわけです。

実は、この神社の境内には本格的な和菓子屋さんがありまして、お菓子を買うこともお参りの楽しみの一つなのですが、先日そんな宇美八幡宮にさらなる食の魅力を発見しました。

神社のすぐ隣りのお蕎麦屋さんが素晴らしいんです。

お参りのついでに本当に偶然入ったのですが、「鴨出汁蕎麦」がとっても美味しい!
まず十割蕎麦に感動!今まで食べた十割蕎麦で一番でした。また鴨肉も美味しくて「日本の鴨肉最高!!」と大喜び。
ところがです、帰宅後にそのお蕎麦屋さんの公式サイトをチェックしたら、なんと「当店の鴨肉はフランス産です」と書いてあるではありませんか!私にとっての人生最高の鴨出汁蕎麦は、意外にも日仏合作だったのです。いや~ビックリ。
…しかし、よくよく考えてみれば、食文化はもちろん創造性をともなう文化では、あくなき探求に国籍など関係ないのです。

それは日本庭園も例外ではありません。実は日本庭園にも西洋発のものがたくさん取り入れられて景色の中に溶けこんでいるのです。今回はそのお話です。

日本庭園にとりこまれた西洋の庭園手法でよく知られているものの一つに、「VISTA/ビスタ」があります。
「ビスタ」は一定方向に軸線を持つ景観構成手法で、視点の中心に真っ直ぐ延びる道(軸線)をつくり、その左右両側に同じ高さの建造物や並木などを連続して配置し、整然とした左右対称の景観をつくります。
基本的には軸線=視点の中心に、視線を止める役割をもつ建物などが置かれ「アイストップ」と呼ばれています。たとえばパリでは左右両側に同じ高さの建物が続く道の先にアイストップである凱旋門が見えて綺麗に左右対称のお馴染みの景色、あれがビスタなのです。
実は、ビスタは本来はイタリアの都市計画で用いられたものでしたが、庭園にも取り入れられヨーロッパ各地に広まり、フランスのベルサイユ宮殿の庭園で頂点を迎え、その後の西洋庭園に多大な影響を与えました。
ビスタは早くも安土桃山時代には日本に伝わり、江戸初期に造営された桂離宮にも取り入れられ、左右に生け垣が続く真っ直ぐな道の先にアイストップとして美しい松が植えられています。
楽水園にもビスタはあります。下の写真を御覧ください。

楽水園では表門から真っ直ぐのびるアプローチ、ここにビスタが取り入れられています。

アプローチの長さは約25m、その左右両側にどちらも同じ高さに見えるように整えられた「博多べい」と「竹垣」を立て、ビスタに基づく左右対称の空間を設けているのです。しかし、楽水園は日本庭園なので基本的には左右対称を好みません。そこで左右の素材を「博多べい=土=重」と「竹垣=竹=軽」とし変化をもたせ、さらに竹垣をジグザグに立てることで左右非対称の要素を加えて日本的にアレンジしているのです。しかし、アプローチ全体は左右対称で西洋の景観手法ビスタに基づいていることに違いはないのです。

さらにこのアプローチには驚くべき秘密が隠されています。
パースが意図的に改竄され遠近感が誇張されているのです。

左の竹垣はジグザグに折れながら奥へ行くほど内側にせり出し、道幅を狭めているのは写真でもよくわかりますが、実は右側の博多べいも左に呼応して約10度内角に進路をとって立てられているのです。
つまり、左はもちろん、右からも道幅が狭められているのです。
スタート地点の表門付近では幅5mであるのに対して20m付近では2.5m、つまり半分の幅になっています。このアプローチは先細りの漏斗のような平面図になっているのです。
実はこれも西洋の庭園景観手法で、私達の目に錯覚を起こさせ、実際よりアプローチを長く感じさせる遠近法のマジックなのです。それはもはや劇場の舞台装置のようなもの。私達はこのアプローチを歩きながら知らないうちに非現実空間に迷い込んでいるのです。
また、楽水園のビスタでは、あえて視点の中心にアイストップを設けていません。
これがまた巧妙な仕掛けとなっていて「道の先で左に曲がったら何があるんだろう?」と、私達の好奇心をそそり、奥へ奥へと招き寄せる効果を生んでいるのです。
それに呼応し、アプローチから庭の景色がまったく見えないようにしています。次に視界がひらけて庭園の景色が見えたときに感動を倍増させる効果を狙っているのです。最初からすべてが見えてしまったらつまりませんよね。
日本庭園にも映画のようにプロローグがあるのです。

さて、今回は日本庭園に取り入れられた西洋発の景観手法「ビスタ」を取り上げましたが如何でしたか?
日本庭園は実はとてもインターナショナルなのです。同じビスタで繋がっているフランスのベルサイユ宮殿と博多の楽水園はちょっとした遠い親戚なのかもしれません。私が食べた人生最高の鴨出汁蕎麦が日仏合作だったのと似ていますよね。
マリー・アントワネットにもあの鴨出汁蕎麦を食べさせてあげたかったなぁ。
そしたら「パンが無ければ鴨出汁蕎麦を食べればいいじゃない」になったかも?(独り言)

日本庭園には様々な仕掛けや意味があります。だから文化なのです。
それらを知れば知るほど日本庭園の鑑賞の楽しみは増していきます。
これからも色々紹介していきますのでどうぞお楽しみに。

追伸:

宇美八幡宮の隣の蕎麦屋さんについて後日わかったことがもう一つ…
なんとミシュラン掲載ビブグルマン獲得店だそうです。二度ビックリ!

公園案内

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